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50のストーリーでつながりがわかるイスラムの世界史

宮田律 [著]. -- 中央公論新社, 2025.
ISBN:9784120059759
総合評価:

1

私たちが知らなかったルネサンスの源流:50のストーリーで俯瞰するイスラムの世界史

私たちは学校教育やメディアを通じて、どうしても「ヨーロッパが主役、イスラムは脇役(あるいは対立勢力)」という視点で歴史を捉えがちです。しかし、本書はタイトル通り、50の断片的なストーリーを繋ぎ合わせることで、イスラム社会が世界の中心として機能してきた「歴史」を伝えてくれます。

王朝の変遷と文化の連鎖
イスラム教の成立から各王朝(ウマイヤ朝、アッバース朝など)の成り立ちにおいて強調されるのは、単なる武力による拡大ではなく、「ネットワークの形成」でした。 砂漠の商人が築いたこのネットワークは、東西の物産だけでなく、哲学や科学をも運びました。私たちが「暗黒時代」と呼ぶ中世ヨーロッパの裏側で、イスラム圏がいかに高度な文明を謳歌していたかが、エピソードと共に語られます。

ヨーロッパとの文化的交流と、産業革命という転換点
本書で興味深いのは、ヨーロッパとの関係を「対立」一辺倒で描かない点にあります。イスラム世界で保存・発展したギリシャ哲学が後にルネサンスを支えた経緯など、知的な交流の実態が詳しく述べられます。さらに、 かつては先進国として隆盛を誇ったオスマン帝国が、産業革命を経て軍事・経済力を強めたヨーロッパ各国に圧倒されていく過程を、イスラム側が感じたであろう「焦燥感」や「自己変革への模索」の観点で語られます。

国家総力戦の駒にされたイスラム世界
第一次・第二次世界大戦において、列強がイスラム諸国の「独立への願い」を政治的に利用した歴史は、現代の混迷の火種に繋がっています。「アラビアのロレンス」的な英雄譚の裏側で、二枚舌、三枚舌外交によってイスラム社会がどれほど翻弄されたか。この不誠実さが現代まで続く反欧米感情の下敷きになっているようです。

まとめ
筆者は、読者に「イスラム教側が正しい」と言いたいわけではありません。「あちら側にも、こちら側と同じように、守るべき歴史と譲れない正義がある」という見落とされがちな事実を提示しているのです。歴史を俯瞰的に見ることは、必ずしも容易ではありません。本書を通じてイスラム社会の歴史を知ることは、自分たちに直結した世界を理解するための手助けになりそうです。

余談
イスラム世界史とは少し離れますが、本書を通じて、中高生時代に熱中した「アルスラーン戦記(田中芳樹)」や「風の谷のナウシカ(宮崎駿)」を思い出しました。前者はペルシャの歴史や伝説をベースにした世界で、サファーヴィー朝やイスラム以前の伝統が混ざり合った華やかな文化が描写されていました。後者では、砂漠、風、過酷な環境下での土着宗教の信仰など、過酷な自然との共生や文明の興亡が、イスラム世界からヒントを得ているように思われました。


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