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大家さんと僕

矢部太郎著. -- 新潮社, 2017.
ISBN:9784103512110
総合評価:

1

矢部さん、マンガ家になればいいのに

矢部太郎さんの『大家さんと僕』は、新宿に代々住まいを構える上品で可愛らしい87歳の大家さんと、芸人としての自分に迷いを抱えながら日々を続ける37歳の矢部さんという、まったく異なる世界に生きる二人が、思いがけず心地よい距離感で交流を重ねていく日常を描いた作品です。

この二人の“ピュアさ”の相性がとてもよく、そこに時々登場する若い芸人さんのチャラさも不思議と憎めず、全体として柔らかい温度の世界が広がっています。同じく私が好きな『しあわせは食べて寝て待て』にも通じる、世代の違いを越えて互いを尊重し合い、win-winで暮らしていく理想のかたちがここにはあります。

そこには「年上だから従うべき」「やってもらって当然」といった一方的な甘えはなく、お互いをリスペクトし、程よい距離を保ち、認知の歪みを放置しない姿勢が静かに息づいています。この“関係性の健やかさ”こそが、作品の大きな魅力だと感じました。

🌿 印象に残った場面は次の2つです。
● 知覧への旅
矢部さんが大家さん、そして大家さんの50代のお友達と3人で九州・知覧を旅する場面が特に心に残りました。
特攻の街を歩くその姿は、世代の違いを越えて自然に交流できる大家さんの人柄をよく表しています。
きっと大家さんは、どの世代の人にも敬意を持って接してこられたからこそ、孫ほど年の離れた矢部さんとも穏やかに関係を築けたのだと思いました。

● 赤いスーツケースのエピソード
大家さんが矢部さんに譲った赤いスーツケースの中に、元旦那さんの額装された絵が入っていて、その絵の裏に何かメッセージが書かれているはずだと信じていたのに、実際には何も書かれていなかったという場面。
誰のどんな行き違いで大家さんがその思いを抱き続けてきたのかは分からないけれど、「あの人が伝えたかった何か」を何十年も温め続けてきた大家さんの心がそこにあり、そのタイムカプセルを開く瞬間に矢部さんが立ち会っていること自体が、深い信頼の証だと感じました。


ほのぼのとしたタッチの素敵なキャラクターも矢部さんが書かれています。この本を通じて初めて知りましたが、矢部さんのお父様が絵本作家でいらして、遺伝なのか矢部さんもやはり絵がお上手です。ほっこりしたり、時々クスっと笑わせもらったり、癒しされる1冊になっています。


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